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【事務所コラム】福岡の整形外科医師に対する交通事故の講演(文責:宮田卓弥)


福岡の整形外科医師に対する交通事故の講演

講演の様子

 宮田です。

 先日、福岡市内で、福岡の整形外科の医師と弁護士との会合において、講演しました。今回は開業の整形外科医18名、交通事故を扱う弁護士18名の参加でした。

 今回の私の講演のテーマは、「交通事故の診療費不払い」という、保険会社が治療費を支払ってくれないことに対する対処でした。

 交通事故に遭った場合、加害者の任意保険会社が病院に直接治療費を支払っているため、被害者は、医療機関で治療費を支払うことは通常ありません。

 もともと(昭和48年頃まで)は、被害者(患者)が病院に治療費を支払い、その後、被害者が保険会社に請求し支払を受けるものでした。これでは事故関係者に不便ということで、保険会社が、一括払いの制度を取り入れました。

 ただし、任意保険会社の担当者が医療機関側に「治療費は一括払いで払います」と言っているようですが、これは、保険会社が病院でかかった治療費を全額支払うことを約束したものではないというのが裁判の傾向です。

 これに医師側は納得ができないということでした。

 私の方で、医療機関が保険会社に対して治療費を請求できる根拠、医師側が保険会社に対して損害賠償請求した場合の事例について説明させていただきました。

 この会合には、保険会社の顧問をされている弁護士も参加していたので、その弁護士が一括払い制度について医師側に熱心に説明されていたのが印象的でした。

 医師側は、法律的な点は仕方がないということでしたが、やはり納得がいかないという様子でした。

 その後の懇親会で、一括払いの成り立ちの経緯について、長年医療に従事されている医師からお話をお聞きしまた。

 その話によりますと、もともと自動車の保有者は自賠責保険しか加入せず、事故が遭った際に、支払いの関係で被害者・加害者ともに不便な状況であった。

 そのため、保険会社が任意一括制度を導入したことにより、自動車の保有者は任意保険に加入すると大変便利が良いということが浸透したようです。

 その結果、任意保険の加入が激増し、保険会社の利益が増大したとのことでした。

 ですので、任意一括制度によって保険会社が多大な利益を得ているのに、今回のような事例では医師側に負担を負わせるのはおかしいとのことでした。

 私も、法律論はともかく、成り立ちの経緯・利益状況を踏まえると、その医師が言われることはごもっともと思いました。

 交通事故を重点的に扱う弁護士にとっては、地元(福岡)での整形外科医師の協力は不可欠です。今後も意見交換・研鑽に努めたいと思います。

交通事故の任意一括払い制度の裁判例

(1)大阪高判平成元年5月12日

 任意保険会社と医療機関との間で行われている「一括払い」なるものは、保険会社において、被害者の便宜のため、加害者の損害賠償債務の額の確定前に、加害者(被保険者)、被害者、自賠責保険、医療機関等と連絡のうえ、いずれは支払いを免れないと認められる範囲の治療費を一括して立て替え払いしている事実を指すにすぎず、立て替え払いの際保険会社と医療機関との間に行われる協議は、単に立て替え払いを円滑にすすめるためのもので、保険会社に対し医療機関への被害者の治療費一般の支払い義務を課し、医療機関に対し保険会社への右治療費の支払い請求権を付与する合意を含むものではないと解するのが相当である。

(2)それ以後の裁判例

富山地判平成4年1月31日

 交通事故被害者の治療費の支払に関し、任意保険会社と医療機関との間で行われている「一括払」なるものは、医療機関に対し保険会社への治療費の支払請求権を付与するものではないと解されることからすれば、控訴人が被控訴人から本件治療費全額の支払を受けられるものと信頼したとしても、それは十分な根拠のあるものではなく、また、一括払の取扱通知を受けたことが治療を開始、継続したことの直接的な動機、原因となっているとも認められないとして控訴を棄却した。

東京地判平成22年5月7日

 保険者である被告会社は、被害者に対して負う保険金支払債務を弁済しているにすぎないというべきであり、併存的債務引受けをしたとは認められない。

 医療機関と保険者との間で「一括払い」の制度に基づく保険金支払の実務が行われていたからといって、医療機関と保険者との間に権利義務関係を設定するような契約関係が形成されていたとみることはできないから、原告らと被告会社との間に立替払契約が成立したという原告らの主張を認めることはできない。

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