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逸失利益算定実務への問題提起

 櫻井です。

 先日、福岡県弁護士会の交通事故委員会・犯罪被害者支援に関する委員会共催で行われた講演会に行ってきました。

 講演者は二木雄策神戸大学名誉教授、経済学を専門とされる先生です。

 経済学者の方が交通事故・犯罪被害者支援の講演を行われることを不思議に思う方もいるかもしれません。

 ですが、二木名誉教授は交通事故で20歳だった娘さんを亡くし、経済学者の立場から死亡逸失利益の算定実務が不合理だと訴え、名著「交通死~命はあがなえるか」(岩波新書)を記された方なのです。

 死亡逸失利益とは、事故で死亡しなければ将来得られたであろう収入額をいい、基本的には【基礎収入(死亡前の年収)】×【生活費控除率】×【死亡時から67歳までの年数に対応するライプニッツ係数】で計算されます。

 まず、二木名誉教授は、娘さんのような大学生が亡くなった場合、将来の物価や賃金の上昇を考慮することなく、大卒者の平均賃金を「基礎収入」とすることが経済学的に不合理であるとされていました。

 確かに、物価が下落するデフレの時代はありましたが、先進国である日本において、物価は長期的に見ると上昇すると考えられています。

 また、現在でも年功序列型の給与体系が色濃く残っているため、事故で死亡することなく大卒で就職し、長く勤めていれば平均賃金を上回る可能性は十分あります。

 にもかかわらず、現時点での平均賃金を用いて、40年以上先までの収入を上記のような単純な式で計算するということは、逸失利益が一種のフィクションであり、具体的な算定が難しいにしてもおかしな話です。

 また二木名誉教授は、【死亡時から67歳までの年数に対応するライプニッツ係数】を掛けること、すなわち「中間利息控除」の点についても問題があるとしていました。

 以前、当事務所の壹岐弁護士が中間利息控除についての見直しついてコラムを執筆しておりますので、こちらも併せてお読みいただけると、中間利息控除とは何か、その問題点はどこにあるのかがお分かりいただけると思います。

 逸失利益の算定実務は、我々弁護士にとって、ともすれば常識のようなものであり、そこに潜む不合理さを忘れがちです。

 しかし、人の命が事故で失われた重みを、流れ作業のような計算で終わらせるべきではありません

 遺族の方の痛みやご本人の無念さを、賠償金という形にしかできない弁護士だからこそ、強い問題意識をもって事件に臨むべきだと、今回の講演を聞き再確認しました。

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