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法定利率が3%に-交通事故賠償額。実際いつから3%?

影響するのは大きく分けて、「遅延損害金」と「後遺障害逸失利益」

 交通事故による損害賠償請求では、「利息」は大きな問題です。

 影響する点は大きく2点あります。

 遅延損害金後遺障害逸失利益です。

(1)遅延損害金

電卓

 まず、1点目は遅延損害金です。

 交通事故による損害賠償請求は事故日から遅延損害金が発生し、支払われるまで利息がつきます。

 訴訟前の示談交渉時においては、保険会社が遅延損害金についてまでは認めないケースが多いですが、裁判の場合には、遅延損害金まで認められることが多いです。

 金額が多くなればなるほど、また事故日から支払い(解決)まで時間がかかればかかるほど利息は大きくなるため、利息は賠償金の決定に大きく影響します。

(2)後遺障害逸失利益

 2点目は後遺障害の逸失利益です。

 交通事故により後遺障害が残存した場合、多くの方は後遺障害の逸失利益が賠償として認められます。

 逸失利益とは、本来得られるべきであった収入が、後遺障害が残存したことにより失われたことによる損害です。

 例えば交通事故で9級の後遺障害が残存してしまった場合、一般的に、基礎収入の35%分(労働能力喪失率)が就労可能年数(67歳まで)までの期間損害となるというものです。※あくまで一般的な算定であり、被害者の個別の事情により変動します。

 つまり、基礎収入が500万円、事故当時47歳だとすると、

500万円×0.35×20年分(67歳ー47歳)

が、逸失利益として損害になるということです。

 もっとも、ここで問題なのは、「就労可能年数」を単純に「20」という数値をかけるのではなく、将来得られる収入から利息分を割り引くため、年数に対応するライプニッツ係数という数値を用いることになります。※資産運用が可能であることから20年後の100万円と現在の100万円は価値が違うという経済学的な考え方です。

 ちなみに20年に相当するライプニッツ係数は、12.4622になります。

 つまり、逸失利益の計算は、

500万円×0.35×42.4622≒2,180万円

という計算になります。

 これがなぜ利息に影響するかというと、このライプニッツ係数の計算は、利息5%基準としているためです。

ライプニッツ係数の計算式
ライプニッツ係数の計算式(年5%)

民法改正により法定利率が下がる

 前置きが長くなりましたが、この利息の利率が変更になりました。

 そもそもこの利息が5%という根拠は、民法に定めてありました。

現行民法第404条
「利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは、その利率は、年5分とする。」

 しかし、今回の民法改正により

改正民法第404条
  1. 利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは、その利率は、その利息が生じた最初の時点における法定利率による。
  2. 法定利率は、年三パーセントとする。

と改正になりました。※正確には同条3項以下で変動利率の規定が定めていますが、ここでは省略します。

 また逸失利益の算定においても、

第417条の2
「将来において取得すべき利益についての損害賠償の額を定める場合において、その利益を取得すべき時までの利息相当額を控除するときは、その損害賠償の請求権が生じた時点における法定利率により、これをする。」※改正民法第722条は、不法行為に同417条の2を準用

と定められました。

 つまり簡単に説明すれば、利息の利率が年3%になるということです。

 これが交通事故賠償にどう影響するのでしょうか?

 遅延損害金および逸失利益の算定にどう影響するのでしょうか?

民法改正と交通事故賠償への影響

(1)遅延損害金への影響

 遅延損害金への影響はシンプルです。

 端的に事故時から発生する遅延損害金の利息が年5%から年3%に減額となり、被害者にとって賠償額が減少することになります。

(2)逸失利益への影響

 逸失利益への影響としては、ライプニッツ係数の数値が変動します。

 年3%を基準とした場合、20のライプニッツ係数は、

計算式
ライプニッツ係数の計算式(年3%)

となります。

 つまり、逸失利益額が増額します。

 前述の例では約420万円の差額が生じます。

 これは大きな違いです。

計算式
500万円×0.35×14.8775≒2,600万円
2,600万円-2,180万円=420万円

いつから3%適用?

 この年3%という利息がいつから適用されるかというのが問題です。※令和2年(2020年)4月1日から施行されています(2020/04/01追記)。

 改正民法は成立しましたが、改正民法の施行は公布の日から3年とされており、現時点は改正前民法が適用されています。

 ちなみに公布は平成29年6月2日ですので、平成32年6月2日までに施行されることになります。

民法改正附則第1条
「この法律は、公布の日から起算して三年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。」

 では、改正民法施行前に事故を起こし、改正民法施行後に損害賠償請求をする場合、利息の利率は3になるのでしょうか。

 この点は、附則に規定があり

民法改正附則第17条第2項
「新法第417条の2の規定は、施行日前の生じた将来において取得すべき利益又は負担すべき費用についての損害賠償請求権については、適用しない。」

とされております。

 つまり、遅延損害金の利息も逸失利益の算定基準も、

  • 施行前に生じた場合においては、年5%
  • 施行後に生じた場合においては、年3%

として計算することになります。

 解決が施行日をまたいだとしても、年5%のままとなります(改正民法第419条1項)。※その後変動しても、適用利率は変更しない(改正民法404条1項)

改正民法第419条第1項
「金銭の給付を目的とする債務の不履行については、損害賠償の額は、債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率によって定める。」

 ちなみに、逸失利益については、いつ後遺障害逸失利益が発生するのかという議論があります。

 つまり、症状固定時が後遺障害逸失利益発生時だとすれば、事故が施行前、症状固定時が施行後というケースでは、遅延損害金は年5%、逸失利益の計算は年3%ということがあり得るのではないか?ということです。

 これについては、法制審議会民法(債権関係)部会第93回会議で

「いわゆる後遺症による逸失利益を算定する場合には、その症状が固定した時点で労働能力喪失期間や喪失率が確定し、損害額の算定が可能になるが、その場合にも、障害の原因となった不法行為時が利率の基準時となる。」とされています。(民法(債権関係)の改正に関する要綱案の取りまとめに向けた検討(17)

 理由としては、症状固定時が基準時となるものとすると、症状固定時がいつであったかを巡 って深刻な紛争を生じることから、一律に不法行為時とするのが適切であるからとされています。

 とすれば、結論としては、施行日より前に事故が発生した場合は、賠償額は遅延損害金、逸失利益の計算全て5%基準、施行後の事故であれば3%基準になるということになります。※改正後の利率変動後の事故は除く

 ちなみに、交通事故は自動運転技術などにより交通事故は減少することが考えられていますが、民法改正は保険会社にとって賠償額の増額化を意味する(遅延損害金による減額よりも逸失利益による増額の影響が上回る)と考えられ、保険料の減額は限定的であるとされています。

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